修業の旅2日目

夜中2時に目を覚まし、窓から外を眺めると恐ろしい程美しい星空である。これは!本日は晴天なり!足の調子も良い、肩は痛いがそういえばザックは腰でほとんどの荷重を受ける、とネットの記事に書いてあったのを読んだが、私はほとんど肩で受けていたかもしれぬ。背負い方を変えれば何とかなる!ということで予定通り夜中3時に双六小屋を出立、西鎌尾根を経由し槍ヶ岳を目指すことにした。

 

書いてあった通り腰で荷重を受けるように背負ったら肩がむちゃくそ楽である。いや、もっと早く書いてあった事思い出しなよ、と自分にツッコミを入れる。

 

登り初めて反対方向の双六岳を目指すヘッデンの明かりやテントの明かりが光って、おまけに夜空の星はここは宇宙か(宇宙だけど)と思うほど美しいのである。もうこの景色を見れただけで胸いっぱいである。私の向かう槍ヶ岳方面には先に1人だけヘッデンの明かりがポツンとあるだけで、どうやらあの明かりの人と私だけのようである。

 

真っ暗の山の向こうの稜線、あっちの稜線とポツポツとヘッデンの明かりが見えて、1人だけど独りではないような、変な仲間意識を持ってしまって心細くない。あの人達もこの美しい世界の同じ住人であるのだなあ、とメルヘンなことを思ってしまう。高校生の時分に父親に、夢見る夢子、とあだ名されていただけあり、その頃の素質がまだまだ健在である。

 

段々と東の空が明るくなって星が薄くなっていくのは季節は違えど、それこそ清少納言の、ようよう白くなりゆくやまぎは、の境地である。

 

すっかり明るくなった時に物凄い早いスピードで後ろから人が来る。抜かしてもらったが、すぐその人も長袖から半袖に着替える為に止まったのですぐ追いついてしまった。すみませんね、抜かしてもらったのに、とその人が笑顔で謝って来たので、いいえ良いですよ。と言って、この道は初めてですか?と聞くと、初めてです、とおっしゃる。私も初めてです。最後がキツイらしいので頑張ります、と言ってまた抜かしてもらった。

 

しばらく行くと最初のヘッデンポツンと明かり、の先に歩いていたおじ様に追いついた。おじ様は7日間くらいかけて、色々縦走しているらしい。ザックの重さはどれくらいですか?と聞くと今日はもう最後の日が近いので軽くなって18kgくらいかな、と宣う。18kg…私のテント泊への夢をへし折る重さである。軽くなって18kg。10kgいかない日帰り荷物で肩をご臨終遊ばせている私にはとても無理である。

 

私もいつかテント泊したいのですけどね、18kgはとても無理そう。と言うと、でもねテント泊は自由でいいよ、とテント泊を激推ししてくる。元々自由人であるのでこれ以上自由になったら私の家族も困りそうだが、自由、魅力的な言葉である。私ももっと頑張っていつかテント泊します!と宣言しておじ様に挨拶して先を急ぐ。

 

途中双六小屋でもらったお弁当を食欲はないけどハンガーノックを避ける為に無理やり食べる。でも五目ご飯が手作りで美味しい。なんかこういうのいいなあ。田舎のおばちゃん達が作ってくれたみたいな素朴な味がする。半分も食べられず、残りは槍ヶ岳に付いてから食べようと片付けて、そろそろ鎖場だからとヘルメットと手袋を装着する。

 

鎖場は拍子抜けするほど怖くなくて、鎖がいらないくらいだった。人生初めての鎖場だったが、かといって鎖場なんて余裕、余裕という気持ちは持ってても今後の事を考えると不要なお気持ちである。今回はたまたま怖くない鎖場だったのだろう。ラッキー。

 

どんどんと目の前に槍ヶ岳が近付いてきて、テンションが上がりまくる。しかし山あるあるだが、見えてからが長い。少しずつ遠ざかってないか?!と思うほど遠い。しかし今回は逆で、コースタイム5時間半くらいだったから、凄く近くに見えるけど、あと2時間くらいかなあと思っていたらそれから1時間いかずに槍ヶ岳山荘に付いてしまった。え?マジ?付いたー!!って、槍の穂先デカイ!!綺麗!!と心が喜びと驚きで忙しい。

 

あとは槍の穂先に登って、登ったど、ドヤア!っとするだけであるな。